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吟遊黙示録マイネリーベ分析


 序論「いささかの危機感をもって」

 多くの真下ファンにとって、この作品は非常に位置づけが難しいものになるだろう。いつもながらの真下印の個性もきっちり見える一方で、実にそつなく雇われ仕事をこなしてもいる。いつものことじゃないか、といえば確かにそうなのだが、おそらくは代表作となるであろう野心作「MADLAX」の直後であり、ファンの頭も整理されないうちに始まってしまったので、ほとんどのファンがきちんと鑑賞できないままに終ってしまったような気がする。

 しかもこの後にはすぐ大メジャー作品の「ツバサ・クロニクル」が控えている。このままでは、二つの巨峰の間に埋没して、まったく忘れられたまま終ってしまう可能性すらある。小品ではあるが、忘れられるには惜しい作品だ。そんな危機感から、このページを立ち上げてみた。

 私自身、この作品を十分咀嚼し切れたとは言いかねるので、断片的な公開になるが、この作品について気が付いたことを少しずつアップしていこうと思う。何しろCS放送で見た人が少なく、DVD発売が始まった現在の方が、一般の視聴者向けには参考になるだろう。(2005年2月23日)

 第1項「ずらされた関係」

 確かに突出した表現もなく、ビィートレイン若手育成の練習問題として制作されたかもしれない可能性すらあるこの作品。基本構造はいたって単純に見える。若き主人公たちが志を胸に外部の敵と戦い、成長していく、という青春ストーリー…確かに間違ってはいない。

 だが、この作品、脇役が非常に少なく、主役が6人もいるのである。第1話こそ、模範的な主人公(オルフェ)、野性味あふれるその親友(エド)、シニカルなライバル(ルードヴィヒ)、中性的な少年(カミュ)、ストイックな異国人(ナオジ)、傍観者だが時に頼りになる狂言まわし(アイザック)というようなオーソドックスな役回りでスタートするが、2話以降は、他の5人が1人1話ずつ主人公を担当し、古典的役まわりが徐々に突き崩されていく。

 ぐるりと一巡した時には、一種群像劇めいた別のスタイルの作品に変貌している。驚くべきことには、原作が恋愛ゲーム(だから私の恋人=マイネリーベ)であるにもかかわらず、ゲーム版のプレイヤーキャラの女性主人公はまったく登場せず、恋愛要素はまったくない青春政治活劇とでもいうべきストイックなスタイルで幕を閉じる。

 このシリーズ、わずか13話しかなかったのでここで幕を閉じたわけだが、もしもう少し長く続いていれば、さらにまったく違う世界にどんどん変化していった可能性も否定できない。最後までとうとう使われずに終ってしまったが、劇中何度も意味ありげに登場する飛行船が何らかの役割を持たされることがあったかもしれない。

 近年の真下作品は必ず何がしかの実験がなされており、それはこの作品でも変わらない。「NOIR」では音声の実験、「.hack」では膨大なセリフを処理する「遠景」処理、「Avenger」ではストーリーと作画を極端に刈り込んだ「省略」の実験。「MADLAX」は言うまでもなく表現の「重ね合わせ」。

 「マイネリーベ」では、同じ行為を反復しながら徐々に変化しまったく違うものになっていく、螺旋構造のような変化のメカニズムを構想していたのではないか。

 何しろこの短さなのですぐに終ってしまったが、過去に手がけた作品で習得したスタイルは、必ず次に生かすのが真下のスタイルである。事実、この作品では「.hack」で習得した群像劇の方法論がくっきりと反映されている。おそらくは「ツバサクロニクル」にて…何ものかが見えるはずだ。(2005年2月23日)

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