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北山プロデューサー

 大ベテラン演出家で人あしらいのうまい策士・真下耕一を相手にするのは大変なことだ。半人前の若手プロデューサーなどでは、手の平で遊ばれてわけのわからないうちに終ってしまい、世にも難解で売りにくい作品を前に頭を抱えることになるだろう。

 真下に対抗する手段は実はそう多くはない。ひとつには、バンダイビジュアルの鵜之澤伸氏のように、絶対君主を演じることだ。それでも真下はのらりくらりと要求をかわしながら、自分の作りたいものを作るだけではあるが。

 あるいは、この北山茂氏のように、胸元に飛び込んでみる手もある。北山氏は、自身も立派なキャリアを持つ人気プロデューサーである。プロデューサーとしては珍しいことだが、手がけてきた作品が、監督の作品であると同時に、自分の作品でもあると立派に胸を張れるものになっている。

 このことが、北山氏をして「制作者寄りのプロデューサー」と評される原因になっているようだが、これは正しくない。北山氏は確かにまず制作の渦中に飛び込み、監督と一緒に作品を作り上げていくタイプだ。そして、ここで出資者の意向を露骨に押し付けたりせず、あたかもスタジオ側主要スタッフの1人のようにふるまっていることが、そう解釈されてしまうのかもしれないが、北山氏の頭の中では、冷静に計算が働いている。

 北山氏は、出資者サイドよりは、視聴者を重視する。いわば「第一視聴者」として、何が足りないか、何を削るべきかを点検しながら製作を進めている。つまりその視点から監督にも意見するわけである。

 演出家、特に真下のように直感派では、場面場面の具体的な映像は頭の中にくっきりとあり、「こんな風に描きたい」という意思は明確であろう。しかしそれが何を意味するのかは詰め切れていないことが多く、全体像が散漫になる危険性をはらんでいる。

 プロデューサーはその作品を「どう売るか」決めなければいけない責任を負っている。北山氏はその点から真下に徹底的に突っ込み、制作意図を明確化させていく。結果として「MADLAX」のようにやや難解なものができてしまったとしても、完成度が高くコンセプトが崩れていないものは、長い時間をかけてじっくりと売り込んでいくことができる。

 これは決して理想主義などではない。かなり冷徹で厳密な裏づけを持つマーケット理論であることが感じられる。

 結果として北山氏は真下と2作しかかかわっていないが、「NOIR」「MADLAX」いずれも極めつけの代表作となった。「殺し屋少女3部作」の第3作目として、再び両者がタッグを組む可能性も噂されている。その日が楽しみだ。(05年6月17日)

北山氏の他作品について 

 北山氏の業績については、人の海氏による優れたファンサイト「フリーダム探偵局編纂室」の中の「北山茂全仕事」のコーナーが詳しい。これに付け加えることなどまったくないのだが、北山氏の他作品について、その後見たものについて、メモ的に触れておく。

「トライガン」
 真下作品以外では、実は、ほぼリアルタイムで見た唯一の作品。コメディタッチの前半で引き込んでおいて、それが伏線として超シリアスな後半に生きてくるという構成の妙もすばらしかった。冷酷なまでに突き詰めた「非暴力」の描き方はぞっとするほど迫力がある。
 その中で、ライナーノーツに積極的に顔を出し、陽気なトーンでファンを引っ張っていった北山氏の姿が印象的。息苦しいまでにシリアスな本編後半の解毒作用もあった。あれは一種の「お祭り」だったか。思えば「お祭り」を作り出すのがうまい人だと思う。

「エクセル・サーガ」
 ヒロイン・三石琴乃、同僚・桑島法子、上司・江原正士というキャスティングで真下耕一版を見てみたい(笑)
 原作とかけ離れた「実験アニメ」ということだったが、実は「何でもあり」ではなく、意外に厳密な「縛り」が感じられた。ただ、「縛り」が詰まったら、いったんリセットして再開する、という作業が何度か行われている形跡がうかがわれる。
 とにかくストーリーがまったく理解できない最初の2話が衝撃的で、その勢いで最後まで見てしまったようなものだ。さすがに「ストーリーを一切進行させない」という縛りで最後まで突き進むのは不可能で、3話目でリセット、「ジャンルパロディではあるが具体的な作品は下敷きにしない」という縛りで20話まで進む。完結へ向けてのテコ入れで「具体的パロディ」を解禁し「ヤマト」やら「北斗の拳」が出てくるが、実はこのあたりが一番面白くない。そして最後の二話で構造そのものが解体され、唐突に終る。これはなかなか刺激的だ。

「ぷにぷにぽえみぃ」
 一応、魔法少女ものといえなくもないのだが、ストーリーというべきものはまったくない。主演の小林由美子嬢が選挙カーなみに「小林、小林、小林」と連呼する声だけが耳に残る。とにかく全篇を通して炸裂する小林嬢の早口言葉に唖然とさせられる。もちろん最近はデジタル編集も発達しているから息継ぎ部分をカットしていけばこういう非常識なセリフまわしも可能になるのだろうと思っていたが、制作スタッフもそう思ったのか、最後に実写で小林嬢が早口言葉をするシーンがある。マジやったんか(^^;
 たぶん、この作品は小林嬢のプロモーション…というかそのパロディとして制作された可能性が高い。OPから実写で登場する小林嬢だが、スッピンでジャージ姿…とても本気で売る意思があったとは考えにくい。むしろそういういかにもなプロモーションアニメをパロディ化する意図でこのような演出となったのではないだろうか。
 ちなみにこの作品と「エクセル」では、北山プロデューサー本人がキャラクターとして登場し、お祭り感を盛り上げる。この作品ではご本人が自身の声を担当。結構うまくて驚く。

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