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案内人・江原正士

 押井守には千葉繁が欠かせないように、真下耕一には江原正士が欠かせない。二人のタッグは1990年の「ロビンフッドの大冒険」から。熱心なファンもいる作品だが、真下のキャリア上からみれば、かなりうまくいかなかったことも多い作品に思える。珍しくあちこちにアラが散見され、映像職人としては屈辱であったに違いない。そのあたりが、今なおDVD化されていない原因だろうか。

 だがこの作品を見るに耐えるものに仕上げたのは、ひとえに江原正士の演技力に尽きる。能天気で牧歌的な少年マンガ的世界にあって、リアルで魅力的な「野心ある男」アルウィン卿のキャラクターを作り上げた江原の技量には感服するほかない。お子様演劇の真ん中で、マクベスを演じてしまったようなものだ。

 押井守にとっての千葉繁は、どちらかというと世界の代弁者というイメージが強いが、江原は、時に難解な真下ワールドの全体像を唯一把握し、視聴者を作品世界に招き入れる役割を担うことが多い。

 真下の前衛作品第1弾である「EAT−MAN」の主役として江原が招かれたのは当然だろう。すべてのキャラクターが不条理な動きをするように見える中にあって、江原演じるイートマンだけがすべてを把握し、ラストシーンへと物語を導いていく。シリーズ最大の傑作「氷柱の沈黙」(第8話)など、まさしくそうだろう。真下演出のトレードマークとなった「ハードボイルド的演出」も、ここで江原が演じたイートマンのキャラクターに大きな影響を受けていることは疑いない。まさしくここが出発点だったのである。

 その直後の「ポポロクロイス物語」で江原が「白騎士」を演じたのは意外な気もするが、真下としても江原を使ってどんなことをできるのか、両極端のキャラを演じさせることで把握しておこうとした部分もあるのではなかろうか。さすがにきわめてそつなくうまいのだが、真下としてはもの足りなく思ったのだろうか。この後、ここまで「いい人」を江原が演じることはなくなってしまう。

 「.hack/SIGN」に江原が未参加なのは実に意外な感じがしたが、そのあたりも真下はちゃんと心得ていた。「.hack/liminality」にて「ザ・ワールド」に現実世界の側から挑戦を挑むプログラマー徳岡の役を割り振ったのはお見事というほかない。

「ジュースはいらん!情報をくれ!」

という第2話の徳岡のセリフは、まさしくシリーズ全体を象徴するものであったように思う。江原にこのセリフを言わせたくて抜擢したのではないかとすら考えたくなる。

 そして、「MADLAX」におけるフライデー。ただ単なる悪役ではない、特異な思想を持つカリスマ的アーチストとしての強大なキャラクターを演じてみせることができたのは、二人のそれまでのコラボレーションの積み重ねがあればこそ、だろう。(2006年01月10日)

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